サイバーエージェント×千原徹也
「社会の課題に、CXに取り組む。」

サイバーエージェント×千原徹也「社会の課題に、CXに取り組む。」

Tokyo Culture Labのリリースにあたり、サイバーエージェント常務執行役員でAI関連事業を統括する内藤貴仁氏と、東京カルチャーを体現してきたCCO(カルチャーチーフオフィサー)を務める千原徹也氏による対談が実現した。

生産性に軸を置いた成長戦略として合理化、効率化を追求する中で、人類はムダを省いていった。その結果がもたらしたものは、アルゴリズムによる数値化された世界。それは均一化した世界とも言い換えることができる。これから訪れるAI時代に企業やビジネスにとって求められる力とは。“カルチャー”こそ、そのヒントとなる。

AI時代がもたらす変化

内藤:
サイバーエージェントでは2014年頃からAIの研究開発をはじめ、その技術を広告に活かしてきました。ソーシャル時代の広告は全員に好かれるのではなく、より個人のユーザーにパーソナライズされた内容でなければ受け付けてもらえません。バリエーションのあるセグメントでターゲティングするためには、膨大な数の広告を作成する必要があります。

内藤

千原:
そういう意味でも、AIを活用することで利益ベースの効果的な広告を量産できますよね。さらに生成AIの進化によって精度・速度共に高まり、より的確な広告をつくれるようになっている。その一方で、人間に求められる力が問われる時代となりました。

先日、とあるマーケットプレイス型のECサイトを運営している企業に新しい広告の提案に行きました。すると、そこのマーケティングの部署の人から「何を提案されても、CMに起用できるのは〇〇しかない」と特定のタレント名を言われた。マーケティングとアルゴリズムで、消費者にどのような広告でアプローチすればいいのかが既に数字で示されていて、それに則ると“そのタレントしか当てはまらない”、と。

「アイデアを出して広告をつくる僕たちはどうすればいいのだろう」と冗談っぽく話すと、彼らは「むしろ私たちはどうしたらいいのでしょう?」とシリアスに答えました。ここまで数字で判断する社会になると、マーケティング部署の人たちも会社で何をすればいいのかわらかなくなっている。「この社会にいる意味は何なのか?」という領域に、既に入ってきていますよね。

内藤:
クライアントの意識としても、高い効果の予測スコアに慣れてしまうと、それに当てはまらないものを選べなくなっていく。つまり、AIが弾き出したアルゴリズムの説得力を覆す判断材料を人間側が持っていない。そうなると、広告の内容自体が均一化していきます。

今のフェーズでは、その戦い方が最も有利なのでどの企業もこぞってその方法を取り入れていますが、これからのAI時代では利益や効果だけでなく、ブランドにとって、消費者にとって、広告にとって、本質的に良いものは何かを考えなければいけません。

千原

千原:
今、ようやく「AI活用」と言われはじめたところなのに、既にその先の話をされていらっしゃる。効果や効率を追求したマーケティング的な手法は、限界が訪れようとしていますね。当然、その変化に順応できない人や企業は淘汰されてしまう。

内藤:
そうですね。生成AIによって業務内容も大幅に変わります。今までは、資料のレイアウトを考えたり、文字の大きさを調整したりする作業が人間の仕事だったわけです。それらが全てなくなり、おそらく7、8割の業務がなくなります。

千原さんのようなオリジナルな表現として広告をつくっているクリエイターはおそらく生き残ると思いますが、そうではないクリエイターたちの仕事はなくなってしまう気がします。つまり、“創造”ではなく“作業”として広告をつくっているクリエイターたちです。

対談

千原:
オリジナルの表現には、そこへ到達するための種となるアイデアが必要となります。マーケティングから導き出したアイデアではなく、独自のアイデアを生むためには“カルチャー”が必要になってきますよね。文化・文脈を学び、発想の中へ取り入れること。それが結果として自らがカルチャーをつくることにもつながる。効果や効率ベースの世の中では、カルチャーが軽んじられてきました。理由はシンプルで、数値化できないからです。一見、ムダとも捉えることができてしまう。今後はその教育やマネジメントが求められるのではないでしょうか。

内藤:
今、僕たちは効率化を追求し過ぎて、ムダなことをしていないのでアイデアが出ないんですよ。今まではソフトウェアだけを教えて効率を上げるための育成をしていればよかったですが、その部分がごっそりとなくなる。ほとんどの企業ではまだその準備ができていません。カルチャーの教育・マネジメントに取り組んでいるかどうかで、企業間で差が生まれるでしょうね。

企業文化を育む

千原

千原:
リモートで仕事ができるようになり、フリーランスや転職組が増え、何のために会社があるのか。「この会社で働き続けたい」と思える何かがあるというのは重要で、人がモノを買う以上に「この会社に身を置く」って大事な選択ですよね。アイデンティティにも関わってくる。若い人はダサい会社にいたくない。その時に、企業のカルチャーやその会社がイケてるかどうかが問われるのだと思っています。

内藤:
イケてるとか、明確な価値観のようなものがあると、効率よりももっと大事なものを判断基準に定めることができると思います。会社は簡単には変われないので、その準備を今のうちからしておいたほうがいい。働く人の意識を変えていくのは、効率性や生産性を追求するより難しいですよ。文化的なモノを育むことで、働く人の意識自体を変えていかなくてはいけない。

千原:
Tokyo Culture Labでは、僕がCCO(カルチャーチーフオフィサー)という肩書で、経営陣やマネージャー陣へのコンサルティングや研修を行います。僕が培ってきた東京カルチャーとクリエイティブを企業と融合させて、企業文化を育みます。たとえば、僕が関わってきたクリエイターやタレント、アーティストなどを招いて社内でコミュニケーションしたり、外向けにプロジェクトを立ち上げてもいい。デザイン的な関りはもちろんのこと、他企業とのコラボレーションを含めてクリエイティブジャンプを起こす土壌をつくっていきます。会社全体をイケてる会社にしていく。

内藤:
これからの時代に求められる要素だと思います。今の段階から、そういったカルチャーやそれらの教育が大事になってきますね。

千原:
誰もがクリエイターのマインドを求められる時代。その鍵がカルチャーにあると思っています。CX(カルチャートランスフォーメーション)のはじまりです。

対談

【プロフィール】

株式会社サイバーエージェント
常務執行役員 内藤貴仁氏

2001年サイバーエージェント新卒入社。10年にインターネット広告事業本部の統括本部長を経て、同年サイバーエージェント取締役就任。現在はアドテクノロジーとAIの研究・開発を担うAI関連事業、オペレーション事業・クリエイティブ事業・DX事業を統括。20年にサイバーエージェント常務執行役員に就任。